早稲田大学卒のＫくんは頭もよく、素直ないい人物。だけど、就職活動の結果、どこにも採用されないまま卒業を迎えてしまいました。聞いてみると、出版業界を志望していて、出版社を15社受けたものの、全て落とされてしまったとのこと。アルバイトをしながら就活を続けたいと、当社のアルバイトに応募してきたのです。

「20代キャリアを元気にする」というテーマを持つ当社としては、彼を放ってはおけないと思い、アルバイトに採用。まずは、電話の仕方、名刺の出し方、挨拶の仕方、応接室の座り方など基本的なことを教えました。しかし現実には…。

電話がかかってきました。
Ｋくんは、暗い口調で「はい、ワークでございます」。
あまりの無愛想さに、「もうちょっと明るい声で出てね。笑顔を作って言うといいよ」とアドバイス。
でも、いくら言ってもできません。頭ではわかっているようですが。

次の電話には「社長は今外出しています」ガチャ。
「よろしければ、ご用件を承ります。とか、折り返しお電話させましょうか？　というふうに言ってね。前にも教えたよね」と指示。
でも、いくら言ってもできません。頭ではわかっているようなのです、本当に。

周りのスタッフが全員忙しそうにしています。でも、知らんぷり。
床にゴミが落ちています。でも、知らんぷり。
誰かがモノを探しています。でも、知らんぷり。
要するにホスピタリティが足りないようなのです。他人のことを思いやる、ということを知らないのかもしれません。

そんな彼に「今の仕事は面白い？」と聞くと「別に」という答え。
「どんな仕事がしたいの？」「書く仕事です」
「具体的には？」「×☆●△※」。要領を得ない。
つまり自分のやりたいことがわからないということ。
そこで「Kくんの趣味は何？」と聞くと「音楽」。
「じゃあ、バンドとかやってんだ」
「いいえ」
「じゃあ、カラオケ好きとか」
「嫌いです」
「なら音楽の何が好きなの？」と聞くと、
「歌詞を細かく分析することです。韻を踏んでいるとか」
「はぁ…」。

ある日、彼に校正の仕事をやってもらいました。文章の間違いや用語遣いの揃え、フォントやサイズの統一、行間や字間のズレなどを正確にチェックしていくという仕事です。もの凄い集中力が必要な業務です。驚いたことに、彼は校正という仕事に対して素晴らしい才能を持っていました。チェック漏れなし。プロの校閲にも匹敵する技術です。しかも「この仕事は楽しい。もっと仕事ないですか？」と彼。それ以来、校正は彼に任せるようになりました。完璧です。普通の人が逆立ちしてもできないことを、彼はスイスイとこなしていきます。

すると、驚いたことが起こりました。
彼は、社員が全員帰っても「ここまではやりたいので終電ギリギリまでやります」と言い、何がいつまでに必要かというスケジュールを完璧に把握。「今日の社長の外出予定を教えてください」と言いはじめ、電話対応も抜群になりました。電話にでると「○○は、ただいま外出しております。お急ぎですか？　大丈夫ですか？」と相手を気遣い、誰もが掃除しないようなところを見つけていつの間にか綺麗にしたり、気がつくとロッカーが完璧に整理されていたり。

校正という自分の才能を生かせる仕事を見つけた瞬間に、デキル社会人に変身したのです。

人の性格は育ってきた環境が作ります。だから「20数年間で培われてきた性格は簡単には変わらない」と誰もが思っているでしょう。でも、一晩で変わることもあるのです。そんな人を何人も知っています。

さて、本題に戻ります。「興味」のフェーズの話です。

彼は今、印刷会社に就職して、校正のプロとして活躍しています。
校正マンが欲しい企業は、彼のような人材を採用すると大変メリットがあると思います。
しかし、たとえ彼が大学時代の就職活動中に「校正」という仕事があることを知ったとしても、何の反応もしなかったでしょう。
自分にそんな仕事が向いているとも思わないし、校正という仕事が何なのかも分からないし、興味もないからです。

しかし「音楽の歌詞を分析するのが好きな人」と呼びかけるキャッチコピーがあったらどうでしょうか。
間違いなく彼は興味を惹かれたでしょう。
つまり、キーワードの魔力はそこなのです。
求める人材像を分析して、その人が惹かれるコピーを作るということなのです。（上記は極端な例ではありますが…）
それが企業側にとってはアンマッチを防ぐ、ということであり、学生にとっては自分がイキイキと取り組める仕事に出会えるということなのです。

今の若者の中には「自分が何をやりたいのかわからない」という人が多いようです。

だからニートも増える。だけど、彼らは心の中では「このままではいけない」と悩んでいます。やりたいことが見つからないだけなのです。
就職活動という期間の中で、本当に打ち込める仕事に出会えていたら、そんな不幸も起こりません。それは企業からのアプローチ法を変えてあげることからしか解決されない、と私は思っています。彼らは社会のことは知りません。だからこそ、私たち採用する側がアタマを使いましょう。それが自社の利益にもつながるのです。

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